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大阪地方裁判所 昭和50年(ワ)5477号 判決

原告 甲野花子

右訴訟代理人弁護士 板東宏

同 村林昌二

被告 大阪市

右代表者市長 大島靖

右訴訟代理人弁護士 中山晴久

同 石井通洋

同 高坂敬三

同 夏住要一郎

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金八三万四三一三円及びこれに対する昭和五〇年一一月一九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1、訴外亀山正夫は、大阪市交通局駅員であり、被告の運営する大阪市高速鉄道五号線鶴橋駅の駅掌として勤務し、同駅駅長の指揮監督のもとに同駅構内の保安及び警備に関する業務を分掌するものであって、国家賠償法一条にいう「公共団体の公権力の行使に当る公務員」である。

2  訴外亀山は、昭和四九年一一月一〇日午後一〇時すぎころ、訴外井上大三が右鶴橋駅構内中階通路において同所に設置してあった被告所有の広告枠のガラスを破損した際、右井上の同行者が同所に居合せたにすぎない原告を含めて、犯人扱いし、同駅々長室に連行しようとして、原告の腕をねじあげ、下腹部を蹴りあげるなどの暴行を加え、よって原告に対し恥骨亀裂骨折、左腰部挫傷、右上腕挫傷など入院一四日間、通院一七日間を要する傷害を与え、もってその職務を行うについて故意又は過失により違法に原告に対して損害を加えたものである。

3  原告は、右傷害により次のとおりの損害をこうむった。

(一) 入通院治療費 一一万三五五〇円

(二) 休業損害額  四二万七六三円

(三) 慰藉料    二〇万円

(四) 弁護士費用  一〇万円

4  かりに、訴外亀山が国家賠償法一条にいう「公共団体の公権力の行使に当る公務員」に該当しないとしても、被告は、その高速鉄道事業のために亀山を使用する者であるところ、原告が蒙った前記損害は被用者たる亀山が被告の右事業の執行につき原告に加えたものであるから、被告は原告の同損害を賠償する責任がある。

よって、原告は被告に対し、国家賠償法一条に基き、予備的に民法七一五条に基き、損害賠償金八三万四三一三円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明白な昭和五〇年一一月一九日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実中、訴外亀山が国賠法一条の「公共団体の公権力の行使に当る公務員」であるとの点は争い、その余は認める。

2  同2の事実中、訴外井上が原告主張の日時にその主張の場所において同所に設置してあった被告所有の広告枠のガラスを破損したこと及び訴外亀山が原告を駅長室に連れて行こうとしたことは認め、その余は否認する。訴外亀山は泥酔した原告及び訴外井上の乱暴、狼藉を制止しただけで、原告に暴行したことはない。

3  同3は知らない。

4  同4の事実中、被告が訴外亀山の使用者であることは認め、その余は争う。

第三証拠《省略》

理由

訴外亀山が国賠法一条にいう「公共団体の公権力の行使に当る公務員」に当るかどうかは暫く措き、請求の原因第2項の事実の有無につき先ず判断をしてみるに、訴外井上が昭和四九年一一月一〇日午後一〇時すぎころ、大阪市高速鉄道五号線鶴橋駅構内中階通路において同所に設置してあった被告所有の広告枠のガラスを破損した際、訴外亀山が原告を同駅の駅長室に連れていこうとしたことは当事者間に争いがない。この争いのない事実と《証拠省略》を総合すると、訴外井上が右広告枠のガラスを破損した際、訴外亀山は、同駅の駅務係員室に同僚の駅掌である訴外東原茂と共に居合せたのであるが、ガラスの破損する物音を聞いて同広告枠附近にかけつけ同所附近にいた右井上及び原告に対し事情を聴取しようとしたが、飲酒のため泥酔に近いまでに酩酊していた原告はこれを拒否し、井上を促して立ち去ろうとしたので原告の左腕をとって同駅駅長室に同行しようとしたところ、原告は突如として暴れ出し、訴外亀山の顔面を数回にわたり手拳で殴打し、股間を蹴りあげるなどしたので、訴外亀山は制止のため原告の右腕をとらえて、ねじあげたが、その手を緩めると、原告は再び同訴外人の顔面を殴打して暴れ出したが、たまたま到着した電車から下車した通行人の一人に背後から羽交締めにされて引き離され、漸くにして暴れるのを中止した。しかしその後原告は暴行の被疑者として大阪府天王寺警察署に連行される途中、警察官の足を蹴るなどして暴れまわり、連行に抵抗し、同署到着後も取調室の机のガラスを手拳で叩き割り、出血しながら更に手を振りまわして大声で「メンスだ、脱脂綿をもってこい」とわめき散らすなどして、喧騒をきわめたために、警察官の事情聴取も不能の状況で、同夜は留置されたこと、原告は昭和四九年一一月一四日大阪市内所在奥野病院で恥骨亀裂骨折、右手背挫傷左腰部挫傷、右上腕挫傷の診断をうけ治療してもらったこと、以上が認められ(る)。《証拠判断省略》右認定事実によれば、原告の右負傷は訴外亀山の行為によって受けたものであると迄は認められず、寧ろ原告が飲酒酩酊して暴れまくったための自傷行為と認めるのが相当である。そうすると、原告の負傷が訴外亀山の不法行為によって生じたものであるとの立証がないことに帰するので、これ以上判断を進める迄もなく、原告の本訴請求はいずれも理由がない。

よって、原告の請求を棄却することととし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 三井喜彦)

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